建設工事の請負契約は高額なものが多いです。
施主さんが支払う金額が高額だと言っても、工事原価が高いので建設業者が得る利益はそれほど高額ではありません。
しかし、『施主さんに工事代金が適切であると理解してもらうのが難しい』という現実があります。
一昔前に悪徳リフォーム業者のニュースが世間を賑わせた記憶もあるため、施主さんとの小さな行き違いが火種となり、トラブルに発展する可能性もあります。
そんなトラブルを回避するために、建設業法では請負契約書の作成が義務付けられています。
請負契約書があれば避けられたかもしれないトラブル事例を交えて、今回はお話しさせていただこうと思います。
目次
1.請負契約書の作成義務について
建設業法では、建設工事の請負契約について次のように規定されています。
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。建設業法第19条第1項
発注者と元請業者だけが請負契約書のを作成する義務があるのではなく、元請業者と下請業者の間でも請負契約書の作成は義務付けられています。
建設業者間の下請負契約は、『注文書』と『注文請書』という形を取られている事が多いですよね。
2.請負契約書のに書くべき内容は?
2. 請負代金の額
3. 工事着手の時期及び工事完成の時期
4. 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
5. 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
6. 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
7. 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
8. 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
9. 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
10. 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
11. 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
12. 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
13. 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
14. 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
15. 契約に関する紛争の解決方法
16. その他国土交通省令で定める事項
以上の16項目を契約書に記載する必要があります。
請負契約書の作成は本体工事だけではなく、追加工事についても作成する必要があります。
『請負契約書の作成が必要なのはわかってるんだけど、なかなか大変で…』という事情は、よく分かります。
しかし、トラブルに発展してからでは遅いので、対岸の火事と思わずに請負契約書の作成の必要性をもう一度考えてもらえたらと思います。
3.追加工事や工事内容の変更に伴うトラブル
建設業界は、工事途中で施主さんからの依頼による追加工事や、工事内容の変更はよくある事なので、どこの建設業者さんでも起こりうることだと思います。
② 工事内容の変更に伴う追加料金を、お客さんが払ってくれない。
③ お客さんからの依頼で工事内容が変わったのに、お客さんは頼んでいないと言う。
① 追加工事の代金を支払ってくれない。
追加工事って本体工事とは別の工事なので、本体工事の契約書には書いていない内容ってことですよね。
『本体工事の契約書は作成してるけど、追加工事の契約書は作成してない。』そんな建設業者さん結構多いんじゃないでしょうか?
商品を購入する際は、その商品ごとに代金を支払う。
とても当たり前の事なんですが、建設工事となると、どこまでが契約の内容なのかが分かりにくく、追加工事はサービスだと思わはる発注者さんが一定数いらっしゃるようです。
事例1
既存のお客さんからのご紹介で、キッチンとトイレのリフォームを依頼された建設業者さんは、キッチンとトイレのリフォームに関する請負契約書を作成し、お客さんと契約を締結しました。
しかし、その後工事の途中で洗面化粧台の取替工事もお願いしたいと依頼され、追加工事については契約書を作成しませんでした。
工事が終わり、お客さんに請求書を渡したところ、「契約書を作成したのはキッチンとトイレだけだから、洗面台の工事代金はサービスだと思った。サービスの範囲内だと思っていたのに、工事代金を払わないとダメなのはおかしい。」と追加工事分の支払いを拒否されました。
この場合、追加工事の契約書を作成していれば、サービスの範囲内と言いがかりをつけられる事もなかったと思われます。
建設工事だから金額ももちろん大きいし、材料費も先に会社が負担しています。
こういうトラブルから会社を守るためには、追加工事の契約書についても作成、締結することが大切です。
② 変更に伴う追加料金を払わない。
事例2
お客さんが工事途中に工事現場に来て、キッチンの配置の変更や造作家具の変更を依頼してきた。
配管の位置等が変わるため、建築士に依頼して図面を新たに作成したり、造作家具のための材料費が新たにかかったが、変更契約書は別途作成しなかった。
工事が完了し請求の段階で、「なんでそんな事にお金が掛かるの?そんなんに金が掛かるのはおかしい。ぼったくる気やろ!」と支払いを拒否された。
建設工事のどういう事にお金がかかるのかというのは、一般の方にしたらよく分からない。
イメージしにくい事のようです。
そして、こういう事でトラブルにならないためには、建設業者の普通と発注者の普通がイコールだと思わないことが大切です。
『言わなくても分かってるだろう。』ではなく、変更に伴う追加料金が発生することを、工事前に説明して理解してもらう事が先ず第一です。
そして、理解してそれでも変更をご希望されるのであれば、変更契約書を別途作成する必要があります。
そうする事で、相互に要らぬトラブルを回避してください。
③ 言った言わないの水掛け論にならないために。
事例3
お客さんから電話が掛かってきて、工事内容の変更依頼があった。
電話を切った後に、直ぐに変更の手配をしたが変更契約書は作成していなかった。
その後お客さんへの引き渡しの段階で「頼んでいた内容と違う。勝手に違うことをされた。」と言われたが、お客さんから依頼されて変更したと伝えたが、電話での変更依頼だったため記録が残っておらず、変更契約書も作成していなかったため、建設業者負担で工事のやり直しになってしまった。
一般的な建設業者さんが、発注者からの依頼なく勝手に工事内容を変更するって、そんなことあり得ないことだと思います。
だってそんな事をしたらお客さんから訴えられるし、行政からの処分があるし、工事の瑕疵を担保するために余計な費用がかかるので、まったく建設業者にはメリットが無いからです。
でも、変更契約書や変更を依頼されたことの、記録が無ければ、依頼されたということを正当に主張することが出来ません。
電話での変更依頼や、工事現場にお客さんが直接来られて口頭での変更依頼で、なんの記録も残っていないというのはよくある話だと思います。
このような状態で「工事の変更は頼まれたからやったんです。」と主張しても、お客さんからしたら「勝手に工事内容を変更されて、こちらの所為にされている。」と思われるかも知れません。
言った言わないの水掛け論になっても何も解決しないので、こういう事態を避けるためには、やはり変更契約書を作成しておく必要があるという事ですね。
④その他の注意事項
工事の追加や変更が発生したり、「これについてはサービスでします。」といった内容については、トラブルに発展しやすいため、お互いがイヤな思いをしないためにもやり取りの記録を取っておくことが重要です。
とくに「サービスでやります」といった内容の相違って結構な確率で発生します。
建設業者は限定的に「これについてはサービス」と言ったつもりでも、お客さんは「全部サービスしてくれるんや」と勘違いしてしまう事があります。
そういうトラブルにならないために、サービスですると言った内容については必ず双方署名の文書を交わすようにしましょう。
契約書の作成と合わせて、工事の打ち合わせに関しても、打ち合わせの内容をメモして双方署名で残しておくのが一番安心です。
4.最後に…
契約書を作成するのは正直めんどくさいと思われるかも知れません。
というか面倒ですよね。
「建設業法で決められているから、作成しなければ違法です!」と言われるとやらされている感が出てウンザリしますが、自社を守る為のツールだと思うと、契約書の必要性を感じていただけるのではないでしょうか?
真面目に営業してはるのに「ぼったくり」とかそういう類のこと言われると、何とも言えない気持ちになると思います。
そういう風に言われないためにも、双方が納得する契約書の作成は重要です。
要らぬトラブルに発展しないためにも、どうぞ契約書を作成するようにしてください。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。