建設業法では、建設工事が適正に行われるために、工事現場ごとに施工の技術上の管理をする『主任技術者』または、『監理技術者』を設置する必要があります。
建設業許可申請や決算変更届で提出する工事経歴書にも、①どこの現場の②なんていう工事に、③どの主任技術者が配置されてて④工期はどれぐらいか⑤請負金額はいくらかってのを書く必要があります。
建設業許可を維持するためには、とても大事な知識なので、是非知っておいてもらえたらと思います。
目次
1.主任技術者と監理技術者の違いは?
①主任技術者
建設業者さんは、建設工事を施工するときには、工事現場における工事の施工の技術上の管理をつかさどる者として主任技術者を配置する必要があります。
主任技術者の配置には、元請・下請関係なく、どんな小さな工事であっても、許可を受けている工事業種に関しては、すべての建設業者が配置する必要があります。
そして、主任技術者になれるのは一般建設業の専任技術者になれる要件と同じです。
- 工事業種の資格を持っている人
- 10年以上の実務経験者
- 指定学科卒業+実務経験者
指定学科についてはこちらを参照してください。
②監理技術者
監理技術者を配置する必要がある工事を簡単にいうと、特定建設業許可が必要になる工事です。
特定建設業許可が必要になる工事というのは、
2.下請に出す工事の合計金額が、税込みで4,000万円(建築一式工事の場合は6,000万円)以上
この2つの要件を満たす場合になります。
例えば、下請けの立場で8,000万円の工事を請け負った場合はどうでしょう?
主任技術者と監理技術者どちらを配置しないとダメか分かりますか?
答えは、主任技術者です。
下請業者の場合は、孫請けに例え1億円の工事を出したとしても、配置するのは主任技術者になります。
また、自社が元請であったとしても下請けに出す合計金額が税込みで4,000万円(建築一式工事の場合は6,000万円)未満だったら、自社の技術者は主任技術者でOKです。
監理技術者になるためには、特定建設業の専任技術者と同じ要件を満たす必要があります。
- 国家資格(1級)の取得
- 一般建設業許可の専任技術者の要件 + 指導監督的実務経験(元請で4,500万円以上で通算が2年以上)
- 大臣の認定者
※指定建設業・・・土木・建築・電気・管・鋼構造物・舗装・造園の7業種の特定建設業許可については、専任技術者は実務経験者が就くことが出来ず、一級の国家資格者又は国土交通大臣特別認定者であることが必要です。
〇主任技術者と監理技術者の役割
呼び名は同じ『主任技術者』であっても、元請の主任技術者はやること多めで責任も重くなります。
詳しくは次の表を見てください。
タイプAが監理技術者と元請の主任技術者の役割で、タイプBが下請の主任技術者の役割です。
タイプBの品質管理の立ち合いは、『自社が請け負った範囲の建設工事に関する立ち合い』です。
2.主任技術者や監理技術者は、現場への常駐が必要?
〇工事現場への専任義務
主任技術者や監理技術者は、基本的には担当する建設工事に専任する必要があります。
『専任って何よ!?』ってことですが、めちゃくちゃ簡単に言うと、
その工事だけに集中して他の工事は担当しないでくださいってことです。
そんなん言われても、一人親方や技術者少な目の会社やったら、一つだけって言われても聞いてたら商売になりません。
なので、『原則は専任してください。』なんですが、例外として次の要件をすべて満たす場合は専任する必要は無く、現場をかけ持つことが出来ます。
2.3,500万円(税込)未満(建築一式は7,000万円未満)の工事
専任技術者は主任技術者や監理技術者になれるのか
専任技術者は営業所の業務に専念する義務があるので、専任性のある工事を担当することは出来ません。
しかし、専任性の必要が無い工事に関しては、例外的に主任技術者となることが出来ます。
監理技術者が必要な工事は、4,000万円以上下請契約をするということは、現実的に考えると専任性のある工事に該当するはずなので、専任技術者は監理技術者となることは不可能です。
〇主任技術者・監理技術者の専任期間
元請の場合
自社が元請の場合は、主任技術者(監理技術者)の工事に専任する期間は契約工期です。
ただし、契約工期中であっても次の場合は専任する必要はありません。
- 契約後、現場施工に着手するまでの期間
- 工事用地の確保が未だ
- 自然災害発生、埋蔵文化財調査などで工事が一時中断している期間
- 工事完了、検査も終了し、事務手続きや後片付けをしている期間
- 工事全般について、工場制作のみが行われている期間
下請けの場合
下請工事においては、専任の必要な期間は、下請工事が実際に施工されている期間になります。
〇常駐は必要なのか?
専任性が必要な工事であったとしても、他の工事現場との掛け持ちを禁止しているのであって、工事現場への常駐を求めているわけではありません。
3.専任性のある工事を担当する主任技術者や監理技術者は、休暇の取得は出来るの?
専任性のある工事であっても、先ほどお話ししたように、工事現場への常駐までを求められているわけではありません。
工事現場が動いている時でも、突発で休暇を取得する必要があることも考えられます。
そういう時は、次の要件を満たせば休暇を取得してもらうことが可能です。
2.連絡を取れる体制を確保
3.必要に応じて、現場に戻る体制を確保
4.元請の場合は発注者の了解を得る
5.下請の場合は元請または上位の下請の了解を得る
6.研修、講習、その他合理的な理由
代理の技術者の配置は、その工事を担当することが出来る資格や実務経験を有している必要があります。
4.違法じゃない一括下請負があるって知ってますか?その際は主任技術者等の配置は必要なのか?
工事を請負った建設業者が実質的に関与せず、下請にその工事の全部または主要な部分もしくは独立した一部を一括して請け負わせること。
〇違法じゃない一括下請負(丸投げ)ってどんなの?
建設業法では原則『丸投げ禁止』とか『一括下請負禁止』ってよくいうじゃないですか?
原則があるという事は、例外もあるってことなんですよね。
2.共同住宅を新築する工事以外
3.元請が発注者にあらかじめ一括下請負することを書面で承諾を得ている
この3つの要件をすべて満たした場合は、丸投げをすることが出来ます。
ちなみに、公共工事は全面的に丸投げ禁止なのでご注意ください。
〇合法で丸投げ出来るなら、主任技術者や監理技術者の配置って不要なの?
合法的に丸投げ出来るんなら、もちろん主任技術者なんかも置かずに行きたいところですが、残念ながらそういうわけにはいきません。
丸投げ出来たとしても、やはり主任技術者や監理技術者を配置する必要があります。
5.主任技術者や監理技術者は出向社員や派遣社員でもOK?
結論から言いますと、主任技術者や監理技術者に出向社員や派遣社員がなることは出来ません。
建設業法では、建設工事の適正な施工を確保するため、主任技術者や監理技術者には、所属する建設業者との間に、直接的かつ恒常的な雇用関係が求められています。
〇直接的な雇用関係
建設業者と主任技術者や監理技術者との間に、第三者の介入する余地がない雇用に関する権利義務関係が存在する必要があります。
要は、出向社員だと出向元の会社が間に入ることになるし、派遣社員だと派遣元が間に入ることになります。
なので、建設業者との直接雇用関係とは言えず、出向社員や派遣社員は主任技術者や監理技術者になることは出来ません。
〇恒常的な雇用関係
恒常的な雇用とは、一定の期間その建設業者に勤務し、毎日一定以上の時間働くことを言います。
一つの工事のみの短期雇用などは恒常的な雇用関係とは言わないので、この場合は主任技術者や監理技術者になることが出来ません。
また、公共工事に配置出来る技術者については、入札の申込みから3ヵ月以前から雇用している者を配置する必要があるので、これも注意が必要です。
6.主任技術者や監理技術者は工事の途中で交代しても大丈夫?
建設工事の適正な施工の確保という観点から、主任技術者や監理技術者は、いつでも交代OKというわけにはいきません。
しかし、どうしても主任技術者や監理技術者を交代する必要がある場合は、慎重かつ必要最低限として例外的に交代が認められています。
1.死亡
2.傷病
3.出産
4.退職
5.受注者の責によらない理由により工事中止または工事内容の大幅な変更が発生し、工期が延長された場合
6.橋梁、ポンプ、ゲート等の工事製作を含む工事であって、工場から現地へ工事の現場が移行する時点
7.ダム、トンネル等の大規模な工事で、一つの契約工事が多年に及ぶ場合
これらの場合にやむを得ず交代する場合であっても、次のことに注意する必要があります。
2.交代前後における技術者の技術力が同等(入札参加条件等に適合している等)以上に確保されること
3.一定期間の重複配置により、工事の継続性、品質等が確保されること
4.最後に…
ちょっと長くなってしまいましたが、重要な部分は大体ご説明できたかなと思います。
建設業許可がある業種は絶対に主任技術者か監理技術者を置かないとダメとか、逆に言えば、建設業許可が無ければ主任技術者の配置は不要ってことですよね。
現場専任であっても常駐まで求めてませんよとか、やむを得ない時は交代できるっていうことなんかは、頭の隅にでも入れといてもらったら、何かの時に役に立つんじゃないかなと思います。
結構いろいろ書いたんですが、まだまだ掘り下げるところがたくさんあるので、また次の機会にでもお話しできたら良いなと思います。
それでは、最後までお付き合いいただきありがとうございました。