建設業退職金共済制度をご存じでしょうか?
建退共(けんたいきょう)と呼ばれることが多いんですが『経審を受けるときに加点になる』とか『公共工事を落札したら加入するように言われた』とかそういう話を耳にしたことがあるんじゃないでしょうか?
『建退共って聞いたことはあるけど加入方法や制度がイマイチよく分からない。』
今回はそんな建退共の制度について、分かりやすく説明していきたいと思います。
目次
1.建退共(建設業退職金共済)ってどんな制度?
建退共とは建設現場で働く人たちのために、国が作った退職金制度です。
建設業界は多くの中小企業が支えており、退職金制度は法定の制度ではないため整備している事業者は多いとは言えません。
また、退職金制度があったとしても会社や現場を多く移る労働者が多いため、支給を受ける期間に達することなく退職してしまうという問題もあります。
そこで出来たのがこの制度です。
現場や事業主が例え変わったとしても、労働者が建設業界で働くのを辞めた時に退職金を受け取れるように、建設業界全体の退職金制度として国がこの制度を作りました。
2.建退共のメリットは?
建退共は、労働者が退職金を受け取ることが出来るだけではなく、事業者にも建退共に加入するメリットはいくつかあります。
経営事項審査の加点になる
公共工事を受注するためには、会社の施工能力や資金力等を点数化するために経営事項審査いわゆる経審を受ける必要がありますよね?
建退共に加入し掛金を支払っていると経審の『社会性・その他の審査項目』で15点の加点になります。
『社会性・その他の審査項目』というのは、工事業種の別を問わず全体の加点になる項目なので、15点の加点というのは非常に大きいです。
例えば、土木工事業と舗装工事業の経審を受けるとしましょう。
土木工事の実務経験者を6ヶ月を超える期間雇用した場合は、何点の加点になるかご存じですか?
この場合は土木工事業に1点加点されます。
舗装工事の実務経験は無いので、舗装工事への加点はありません。
この会社が建退共に加入し掛金を支払っていた場合は、土木工事業に15点、舗装工事業にも15点の加点になります。
実務経験者を30人雇ったぐらいの加点になるということです。
掛金は損金扱い
事業主が払込む掛金(共済証紙代金)は、法人であれば全額損金、個人事業は全額必要経費として全額免税になります。
また、掛金は労働者の給与所得にも含まれないので、所得税の源泉徴収の対象にもなりません。
直接雇用している労働者がいない場合は、下請業者へ共済証紙を交付することになりますが、この場合はの証紙代金は工事原価となり免税となります。
求職者に選ばれやすい
建設業界は常に人材不足で『求人を出してもなかなか良い人が来てくれない』とお嘆きの社長さんはたくさんいらっしゃいます。
同じ働くなら福利厚生がしっかりした会社が良いと思うのは、どの業界でも同じことですよね?
事業主独自の退職金制度がなかったとしても建退共に事業主が加入していれば、労働者が建設業界で働くことを辞めた際に退職金がもらえることになります。
建設業界全体の退職金制度である建退共ですが、加入している事業者が少ないと労働者に支払われる退職金は必然的に少なくなってしまいます。
労働者のみにメリットがある制度ではないので、多くの事業者が加入することが大切だと思います。
【ポイント】
- 経審で15点の加点になる
- 掛金は全額損金になる
- 求人に強くなる
3.建退共に加入出来るのは?
事業主として加入
建退共に加入出来るのは、建設業を営んでいる事業主なら誰でもOKです。
法人個人、元請下請、建設業許可の有無を問わず加入することが出来ます。
対象となる労働者
建設現場で働く殆どの労働者が対象となります。
現場で作業をする技術者は当然ですが、建設業者に雇用されているのであれば交通整理をするガードマン、運転手、炊事婦や現場事務員も対象になります。
ここで注意が必要なのが『建設業者に雇用されていること』という要件です。
警備会社に雇われているガードマンは対象になりません。
現場で働く技術者であっても、会社の役員や本社の事務員は対象外になります。
他府県の場合は分かりませんが、大阪府では役員でなくとも代表者の同居の親族も対象外になります。
一人親方(従業員を雇用していない個人事業主)は、一人親方数人で任意組合を作りその任意組合に雇用されている労働者とみなすことによって、対象者となることができます。
【対象外】
- 役員報酬をもらっている人
- 代表者の同居の家族
- 建設業者に雇われていない労働者
4.建退共に加入するには?
どういった制度かは大体分かっていただけましたか?
それでは建退共に加入するためにはどうすれば良いのかをお話させていただきます。
事業主が建退共に加入するには『共済契約申込書』と『共済手帳申込書』に必要事項を記入して、各都道府県の支部に申込む必要があります。
大阪の場合は大阪メトロ谷町線の『天満橋駅』から西へ徒歩約5分の場所に建退共大阪支部があるので、そちらに申込をすることになります。
加入申込みの際には、加入対象の従業員全員が被共済者となるように同時に手続きをします。
被共済者というのは、退職金をもらう側の人ですね。
この人は会社に貢献してくれているから共済手帳を作るけど、他の人は作らないというのは出来ません。
対象となる従業員さん全員が退職金を貰えるように、手続をしましょう。
5.建退共に加入したら?
事業主と建退共の運営団体は、共済契約申込書によって共済契約が結ばれたことになります。
事業主には『建設業退職金共済契約者証』という中小事業主の場合はオレンジ、大手事業主の場合は青いカードが発行されます。
労働者には一人1冊ずつ共済手帳が交付されます。
事業主が建退共の掛金を支払うには、金融機関で『共済証紙』を購入する必要があります。
その際に『建設業退職金共済契約者証』を金融機関に持参する必要があるので、失くさないようにしてくださいね。
購入した共済証紙は、従業員さんの働いた日数分手帳に貼って割印をするようにしてください。
6.よくある質問
Q1 | 共済証紙は1枚何円ですか? |
---|---|
A1 | 1日券が320円、10日券は3,200円です。 |
Q2 | 共済証紙はどこで買えますか? |
A2 |
最寄りの銀行で購入できますが、在庫が十分にあるか電話で確認後に購入に向かわれた方が良いと思います。 購入の際には『建設業退職金共済契約者証』を持っていくのを忘れずに。 令和3年3月1日から掛金を電子申請で納入することが出来るようになります。(R3.2.16追記) |
Q3 | 金券ショップで売ってるのを見たんですが、そちらで買った方が安いので金券ショップで買っても良いですか? |
A3 |
経審の加点を考えているのであれば金融機関で購入してください。 共済証紙購入を購入しても運営団体に実績が伝わらないため、建退共加入履行証明書を発行してもらえません。 |
Q4 | 共済証紙を購入しましたが、いつ手帳に貼れば良いのか分からず貼っていません。いつ貼るべきですか? |
A4 | 少なくとも月に一度お給料支払いの際に貼り付けるようにしてください。 |
Q5 | 期中に共済証紙を購入するのを忘れていました。建退共加入履行証明書を発行してもらえるんでしょうか? |
A5 |
原則期中に共済証紙を購入するか、手帳の更新があった場合しか建退共加入履行証明書を発行してもらえません。 しかし、大阪府の場合は決算後に共済証紙を購入しても金融機関が購入の際に発行する『掛金収納書』を持参すれば建退共加入履行証明書を発行してくれます。 他府県については各支部にお問い合わせください。 ※令和4年4月1日からは、絶対に期中に証紙を購入しないと、証明書を発行してもらえません。 |
7.建退共の掛金納入方式に電子申請方式が追加されます(R3.2.16追記)
今までは建退共の掛金納入方法は、金融機関で共済証紙を購入する方法しかありませんでしたが、令和3年3月1日より電子申請で掛金を納入できるシステムが追加されました。
『退職金ポイント』という電子ポイントを事前に購入し、労働者(技術者や雇用している運転手など)が働いた日数を登録した『功労実績報告ファイル』により掛金を充当するそうです。
金融機関で証紙を購入する時には、在庫確認を銀行にするなどが必要でしたが、電子だと売り切れが無いのでその点は便利になるんでしょうね。
ただ、建退共に電子申請方式申込を郵送でする必要があり、IDとパスワードがこちらも郵送で送られてくるという方式のようです。
登録をしてしまって、電子申請のやり方に慣れてしまえば便利なんでしょうが、最初の第一歩は少し面倒だと感じるかも知れませんね。
今回は建退共についてご説明させていただきました。
最初はよく分からないかも知れませんが、公共工事を落札した際は役所から建退共に加入するように指導があります。
公共工事とは切り離せない制度なので、事業主さんに少しでもご理解いただければ幸いです。